ART & POWER |
ボストン美術館は、エジプト、アジア、ヨーロッパ、アメリカの美術をはじめ古代から現代まで、質の高い作品を幅広く収蔵しています。
本展ではボストン美術館の百科事典的なコレクションの中から、「芸術と力」 に焦点を当てた古今東西の作品を展示し、芸術作品が古来から担ってきた社会的な役割に注目します。 エジプトのファラオやヨーロッパの王族や皇帝を彩った工芸やジュエリー、日本の大名が自らたしなんだ絵画まで、世界各国の宮廷を彩った約 60 点の作品をとおして、力とともにあった芸術の歴史を振り返ります。 |
特に注目されるのは、ボストン美術館が誇る日本美術コレクションのなかでも傑出した存在である。 遣唐使・吉備真備の活躍を描いた 《吉備大臣入唐絵巻》
と、平治の乱をテーマにダイナミックな戦いの様子を描いた 《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》 です。 |
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'2022 7_22 「ボストン美術館展 芸術 X 力」 プレス内覧会展示風景・ギャラリートーク、プレスリリース、「ボストン美術館展 芸術 X 力」図録の抜粋文でご紹介しています。 |
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2022 年、日本の宝里帰り |
「ボストン美術館展 芸術 X 力」 展覧会の見どころと展示構成 |
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本展に展観される古今東西のおよそ 60点の絵画や版画、立体作品を通して、作品に備わる愛情、敬意、細やかな配慮といったものが、リーダーたちに指導者としての特別な力を授けてきたことが明らかにされることと思います。 |
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目次. Contents |
'2022 7_22 「ボストン美術館展 芸術 X 力」 プレス内覧会展示風景・ギャラリートーク、プレスリリース、「ボストン美術館展 芸術 X 力」図録の抜粋文でご紹介しています。 |
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【 1 . 姿を見せる、力を示す PORTRAITS AND EMBLEMS OF POWER 】 |
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中国の乾隆帝が皇帝一族の一員であることを即座に示していたのは、明黄色の袍(上衣、cat.08) である。 その色が、皇帝と皇后、そして最高位の皇族の側室たちのみが身につかられる色と定められていたのだ。 今日では、国家の君主と大企業の長とを、その装いのみで識別することは難しいだろう。 だが歴史の大半においては、高貴な衣装や王権を象徴する品々、そしてその地位特有の装身具によって、国民は国王や女王をただちに見分けることができた。
19 世紀初頭、ロベール・ルフェーヴルは、1804 年の戴冠式に臨むナポレオン 1世の肖像画(cat.05) を描いているが、毛皮の裏地のついた贅沢な礼服をまとい月桂冠をつけたその姿がフランス皇帝であることは、誰の眼にも見誤りようがなかった。
No.13 《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》 本絵巻は、平治元年(1159) 12 月 9 日、上皇である後白河院(1127-1192、在位:1155-1158) とその姉の上西門院が、上皇の京都の御所である三条殿から暴力的に拉致された劇的な出来事を描いたものだ。
不満を抱く武家の棟梁たちが皇位継承をめぐる闘争に介入し、貴族階級から権力を奪い取る物語で武士が日本の事実上の統治者としての地位を確立、宮廷の人々はそれらを、新しい武士の時代の到来と自らの権威の失墜を特徴づけるものとして見ていた。 |
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左・cat.08 《龍 袍》 清、乾隆帝時代、1736-1796 年 絹、絹糸と金糸による綴織、金属製ボタン 丈 147、幅 190.8 cm ボストン美術館 / 右・cat.14 吉村 周圭 [1736-1795] 《寛政内裏遷幸図屛風》 江戸時代、寛政 2-7 年(1790-1795) 6 曲 1 双、紙本金地着色 各:縦 160.3、横 362.4 cm ボストン美術館 |
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左・cat.08 《龍 袍 》 は、乾隆元年(1736) から嘉慶元年(1796) まで清を統治した乾隆帝(1711-1799) のための宮廷服(袍) である。 皇帝を象徴する 12 の文様(火、山、粉米、一対の龍、日、華中(鳳凰)、月、など 12 の中国の天地観を天文や象徴を用いた表現で複雑に構成し、皇帝が宇宙を支配していることを示す) である 「十二章」 で飾られたこの明黄色の絹製の宮廷服(袍) は、高い地位を示すものであったことを裏付ける。 / ・cat.14 《寛政内裏遷幸図屛風》 天明 8 年(1788) 正月30 日、京都に発生した 「天明の大火」 で、市街の大半と御所も焼失しました。 このため光格天皇(1771-1840) は、御所が再建できるまで聖護院を仮御所とし、2 年後新御所が完成、寛政 2 年(1790) 11 月 22 日、光格天皇とその一行は仮御所から新内裏への遷幸の様子を描く 6 曲 1 双の屏風である。 その新御所に天皇が初めて赴くこの行列も、京の人々にその威光を示す一大行事として荘厳かつ復古的に演出された。 筆者吉村周圭は大阪の画家で寛政度御所造営の際の障壁画制作にも参加している。 |
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【 2 . 聖なる世界 HEAVENLY REALM / EARTHLY REALM 】 |
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イタリアの画家ニッコロ・ディ・ブオナッコルソが描いた《玉座の聖母子と聖司教、洗礼者ヨハネ、四天使》(cat.15)は、至高の美を表す好例である。 贅沢に用いられた金が、天上の世界のまばゆいばかりの光景を生み出している。 |
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左・cat.15 ニッコロ・ディ・ブオナッコルソ [イタリア(シエナ)、1370 頃から活動 -1388 没 ] 《玉座の聖母子と聖司教ヨハネ、四天使》 1380 年頃 テンペラ、板 縦 46.3、横 31.7 cm ボストン美術館 / 右・cat.22 《罪福報応経(中尊寺経)》 平安時代、12 世紀前半 1 巻、紺紙金銀字交書 縦 26.4、横 189.1 cm ボストン美術館 |
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左・cat.15 《玉座の聖母子と聖司教ヨハネ、四天使》 金色のオレンジ色の布で覆われた処女マリアが神の子である一羽の小鳥と遊んでいる幼児イエスを産み育てる聖母として選ばれ、マリアの玉座は金色とオレンジ色の布で覆われており、また彼女の青い衣装と肩に描かれた金色の星は、天の統治者としての彼女の地位を強調している。 左右の金色の衣装の聖人と金髪の天使たちという手の込んだ繊細な図柄が重なり合っている。 この貴重で洗練を極めた作品は、14 世紀のシエナの画家たちの特徴である金箔をふんだんに用いた装飾的な好みをよく表している。 / ・右 cat.22 《罪福報応経(中尊寺経)》 平泉の奥州藤原氏、初代当主・清衡(1056-1128)が天治元年(1124)に建立した中尊寺金色堂は荘厳な輝きの金堂で黄金文化を誇った。 中尊寺経は、清衡が発願し中尊寺に奉納された紺紙金銀交書の一切経で、15 巻が中尊寺に伝わる 。 法華経信仰が平安時代の貴族社会に広く浸透し、特に写経によって仏の加護が得られるとの信仰に基づいて数々の写経がつくられ奉納された。 仏の言葉を飾るための工夫が様々に凝らされっるようになり、紺色の料紙に金銀泥で経文を書写した装飾写経が平安時代後半期に隆盛を極めた。 「中尊寺経」 はその代表的な遺品である。 |
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【 4 . 貢ぐ、与える DIPLOMATIC GIFTS】 |
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統治者に対して支配される側が捧げる貢ぎ物は、贈り主の信義や忠誠を表明する役目を果たした。 その例は、中国の皇帝一族の宮廷を様々な民族を代表する使節たちが訪問する様子を描いた狩野永徳の作と伝わる屏風(cat.36)に見ることができる。 古来あらゆる文化において、外交上の贈答品は、国際的な関係を築く重要な役割を果たすと同時に、国家のアイデンティティの確立を推進する役目も担ってきた。
贈り物は伝統的に、条約締結の交渉が終結したことを記念するものであり、今日においても国家間の公式訪問の重要な構成要素であり続けている。 フランスのヴェルサイユ宮殿は、ルイ 14世の治世のもと、特に大使たちとの謁見の儀礼のために設計されたものだ。
18 世紀前半の短い期間ではあるが、ヨーロッパ製の陶磁器は技術的な勝利を収め、ほとんど金をもしのぐ貴重な品となっていた。 1750 年代にフランスのセーヴル磁器製作所でつくられたポタオイユ(「オイユ」という煮込み料理用の蓋付き容器)(cat.40)は、初めルイ 15世からデンマーク王に、そのわずか 10 年後にはデンマークからロシア帝国の女帝に贈られた。
19 世紀のフランス皇帝たちは、外交における贈答品の力を理解し、その目的のために自国の絵画や陶磁器(cat.41)、タペストリー、家具、レース、メダル、金製の箱、そして宝飾品の制作を支援したのだった。 |
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左・cat.36 伝 狩野 永徳 [ 1543-1590 ] 《韃靼人朝貢図屛風》 桃山時代、16 世紀後半 2 曲 1 隻、紙本金地着色 縦 153.2、横 170.4 cm ボストン美術館 / 中 cat.41 セーヴル磁器製作所 (フランス) 装飾金具:ピエール=フィリップ・トミール[フランス、1751-1843]、絵付(花):ジルベール・ドゥルエ[フランス、1785-1825に活動]、 絵付(鳥):クリストフ=フェルディナン・カロン[フランス、1792-1815に活動]、鍛金:シャルル=マリー=ピエール・ボワテル[フランス、1797-1822に活動] 《壺》 フランス、1812-1813 年 エナメル彩色、金鍛金を施した硬質磁器 高 69.9、幅 35、胴径 29.2、台座径 21 cm ボストン美術館 / 右・cat.40 ヴァンセンヌ/セーヴル磁器製作所 (フランス) 装飾:おそらくシャルル=ニコラ・ドダン[フランス、1734-1803 ] 《ポタオイユと受け皿》 フランス、1756 年 エナメルと金で彩色した軟質磁器 ポタオイユ:高 28.8、幅 33.8、奥行 27 cm、受け皿:高 6.1、幅 45.3、奥行 36.7 cm ボストン美術館 |
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左・cat.36 狩野 永徳 本作は、生き生きとした人物表現や面貌が、桃山時代の金碧障壁画の黄金時代を築いた狩野永徳のそれに近く、永徳もしくはその工房による作と考えられる。 《韃靼人朝貢図屛風》 14~15 世紀の足利将軍の世において、中国との交易で 「唐物」 が特に大名に好まれ、桃山時代には、外国船を含めた、異国風俗をモティーフとする絵画が多く制作された、本作は、中国太宗(598-649)に謁見にむかう諸外国からの使節人物群を陸路、海路に描いた画題「王会図」に倣った作品でモンゴル系の騎馬民族、韃靼人の一行が陸路を進む様子が描かれている。 / 中・cat.41 《壺》 ナポレオン一世の時代にセーヴル磁器製作所で制作されたこのような大型の壺は、フランスの技術的かつ芸術的成功を表している。 セーヴル磁器製作所のアーカイヴには、壺のデザインと装飾を担当したそれぞれの芸術家の名前が記録されている。 本作は、当時パリに建設中だった「ローマ王の宮殿」のための作品であろう。 / 右・cat.40 セーヴル磁器製作所 は、1740 年代より王室の庇護を受け、セーヴル窯特有の色釉(緑をはじめ、薔薇色、濃紺など)がそれぞれ 「ローズ・ポンパドール(ポンパドゥールの薔薇色)」「ブリュ・ド・ロワ(国王の青)」と呼ばれるように、ルイ15世とポンパドゥール侯爵夫人、およびその後継者に関連づけられた。 《ポタオイユと受け皿》 は、緑色釉を売りに初めて作られ膨大なディナー用セルヴィス(食器セット)の一部で、1758 年にルイ15世はこのセルヴィスをデンマーク王フレデリク5世に外交上の贈物として進呈したとされており、また、その 10 年ののち、デンマークとロシア帝国の女帝エカテリーナとの間で同盟提携の折衝の際に、同じセルヴィスが外交上の贈物として贈られたこともほぼ確実に判明している。 本作はサンクトペテルブルクの冬宮殿の目録番号を有するが、1910 年にはエルミタージュ美術館に移管された。 |
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左・cat.27 ジョン・シンガー・サージェント [アメリカ、 1856-11925 ] 《1902 年 8 月のエドワード 7世の戴冠式にて国家の剣を持つ、第 6代ロンドンデリー侯爵チャールズ・スチュワートと従者を務めるW・C・ボーモント》 1904 年 油彩、カンヴァス 縦 287、横 195.6 cm ボストン美術館 |
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左・cat.27 ジョン・シンガー・サージェント 本作は、戴冠式において第 6代ロンドンデリー侯爵は、君主の権力を象徴する 「国家の剣」 を運ぶ大役を担った。 その役割と侯爵という身分にふさわしく、 大礼服に、毛皮のついた深紅のヴェルヴェットのマントをまとう彼を画家は見事な筆さばきで描いている。 従者の運ぶイチゴの葉飾りと銀の珠で飾られた宝冠も彼の高い身分を示すものだ。 |
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(「ボストン美術館展 芸術 x 力」の図録や展示パネルよりの抜粋文) |
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19 世紀後半から 20 世紀初頭のアメリカにおいて、市民の指導者たちは都市での教育的・社会的生活に美術館・博物館の設立は不可欠であると考えていた。しかし、ヨーロッパの美術館を特徴づける王室コレクションと宮殿風の建築は、王室によるパトロネージの伝統を持たない若い民主主義の国において容易に支持されるものではなかった。
その代わりに、アメリカ最初期の美術館であるボストン美術館やメトロポリタン美術館は、ロンドンのサウス・ケンジントン博物館(現在のヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)が考案したモデルに基づいて設立された。
サウス・ケンジントン博物館の主要なミッション(使命)は、デザインに関する開かれた教育の場となり、ひいては産業を発展させることであった。 展示物は、素材や技法に基づいて体系づけられた。 これらの展示手法は、現在も日本の国立博物館で採用されている。 |
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ボストン美術館は、1870 年にボストン市民をはじめとする有志によって設立され、1876 年のアメリカの独立 100 周年記念日(7 月 4
日)に開館しました。 古代エジプト、アジア、ヨーロッパ、アメリカの美術をはじめ、古代から現代までの作品を収集し、そのコレクションの質の高さと百科事典的な幅の広さで知られています。 |
お問合せ:tel 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、ボストン美術館、日本テレビ放送網、BS日テレ、読売新聞社 |
参考資料:ボストン美術館「芸術 x 力」図録、 プレス説明会、PRESS RELEASE & 報道資料 、他。 |
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